第3回 「技術」はあるけど「制度」がない(3/3)
そこで,導入したのがネットワークカメラです。主な用途は防犯カメラです。インターネット経由で光学ズームが利用でき,パンやチルトが可能です。マイクも外付けできるのでノイズリダクションを施すことも可能です。Ustream のように,外部サーバーを経由しないのもメリットとなります。学生AのPCとカメラは同じ学内にあるため,無駄なネットワークを経由しないことから,映像品質が安定するようになりました。これらで技術的にはおおむね解決しました。Ustreamは当初2ヶ月利用し,その後は冬学期(後期)も含めてネットワークカメラを利用しました。
しかし,遠隔講義を継続する上で問題は山積していました。カメラの設置は誰が継続的にやるのか・シルバー人材が教室に入っていいのか・遠隔講義による単位の認定は他の学生と不平等にならないのか・遠隔講義を希望する学生が増えたらどう対応するのか・そもそも遠隔講義は大学のサービスなのか などなど。当初,学生Aの単位不足に対して緊急避難的に実施してきた遠隔講義でしたが,その足元は大変脆弱だったわけです。
つまり,遠隔講義は技術的には確立していても,制度的には大学で対応する体制ができていませんでした。継続性においては何ら対策が打てていなかったのです。また,大学の障害学生への対応はもともと対症療法的であり,大学として障害学生を受け入れる体制がなかったのです。国立大学法人は元来お役所であり,硬直化した組織と言ってよいでしょう。その様な組織で,発達障害者のような「新しい障害者」に対応する体制を確立するのは大変困難です。組織の横断的な協力が不可欠です。教員と事務職員の協働はもちろんのこと,事務組織間の連携も必要です。物理的にただスロープを付ければよいというわけではありません。組織間の摩擦は,教職員の意識から学生不在の対応を醸成します。いつしか,面倒な学生は「不要な学生」という雰囲気が作り出されてしまう可能性も十分あり得るでしょう。
技術的には確立した支援方法も,その土台となる環境によっていかようにも転んでしまいます。「技術」と「制度」は両輪となって同じ目標に向かって進んでいく必要があります。
私にも反省点がありました。私はどちらかといえば技術指向なので,技術によって多くが解決できると考えがちです。しかし,制度や組織についても前もってもっと考えなくてはならなかったのです。
遠隔講義による発達障害学生支援は,私にそんなことを学ばせてくれました。
過去の記事
- 第1回 「障害」・「障がい」・「障碍」とテクノロジー (2012-08-11)
- 第2回 大学入ったのに「講義に出られない…」? (2012-10-13)