第1回
「障害」・「障がい」・「障碍」とテクノロジー(1/2)

 はじめまして。ふみふみと申します。現在は東京の多摩地区にある一橋大学で情報系の教員をしています。隔月で連載予定ですので頻繁には登場しないのですが,更新を見つけた時にはぜひ読んでみてくださいね。コラムのタイトルのICTは,情報通信技術(Information Computer Technology)の略で次回以降に関係してきます。今回はごあいさつも兼ねて,障害者と何のゆかりもなかった私が,なぜ今の障害者支援の研究に関わるようになったのかなどを書いてみます。

 1990年代後半,大学生のころは肢体不自由児を対象にした市民ボランティアサークルに所属していました。その経験が今の障害者支援に関わるすべての始まりです。大学二年生のある日,構内に貼ってあるボランティアサークルのメンバー募集のポスターが目に止まりました。夏はキャンプなどに行くみたいだし,その他にも楽しそうなイベントがあるしと,まったく軽い気持ちで始めたのです。

 サークル活動でしばらく障害児の外出支援や家庭訪問などをしていく中で,これまでに触れることがなかった「障害児の生活」を垣間見ることになりました。毎日の通学の苦労や養護学校への不満,近所の同級生(健常者)との微妙な関係や将来に対する不安など。さらには,お母さんの障害児を生んだことによる罪悪感や絶望感の声を聞くこともありました。

 確かにそれらはもっともだと思いながら,一方では,「見た目」よりも意外と頭のいい障害児が少なくないことが分かってきました(誤解を恐れずに言えば)。訓練によっては十分現代社会で通用する能力を発揮することも不可能ではないと感じていました。潜在能力を発揮できない状況は「もったいない」の一言で,どうしたら彼らの能力を活性化することができるのだろうと日々考えていたことを思い出します。

 なお,そのサークルでは,主に脳性まひ・脊髄損傷・自閉症・ダウン症の子どもが所属していました。今でいう「発達障害」という認識はなかったように思います。おそらくは存在していたはずですが「精神薄弱」の用語が現役だった時代なので意識することはありませんでした。

 確かに,彼らにできないことが多いのは分かります。でも,味方になってくれるはずの養護学校でさえ,彼らの能力を生かすための訓練をきちんとしていないのではないかという疑問を持つようになりました。世の中ではパソコンが普及し始めているというのに,文字入力の訓練も施されていない現実を知ったからです。不随意運動により文字が書けない場合は,キーボードに簡単なキーガードを付ければ,ずっと楽に文字を記すことができるはずなのに。無理をして鉛筆を持たせて書けないことを経験させても,貴重な成長期の言語脳を眠らせたままにしておくことになってしまいます。ごく単純なテクノロジーが彼らの能力をより増幅してくれるはずだったのです。

プロフィール

伊藤史人
 (いとうふみひと)

一橋大学教員。
電子情報通信学会発達障害支援研究会(ADD)幹事。
専門分野は、ICT(情報通信技術)を利用した障害者のコミュニケーション支援です。
しばらくは医用画像システムを専門としていたことから、その要素技術であるネットワークや画像処理をメインウェポンにして日々格闘中。
現在、勤務大学ではアスペルガー症候群の障害学生の修学支援として、ネットワークを使った遠隔講義を実施中です。
今後は、障害学生の認知数は増加すると見込まれるため、ICTを使った効果的な支援を模索中です。
コラムでは、ICTを使った発達障害の支援方法を中心に、その他の障害についても触れていく予定です。
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