第2回
大学入ったのに「講義に出られない…」?(1/2)

 発達障害については,ほぼ毎日何かしらのニュースが報じられています。例えば,Google ニュース(https://news.google.co.jp/)で“発達障害”と検索してみてください。どうでしょうか?本稿を執筆現在で,1,340件もの記事が検索されました。また,書籍も膨大で Amazon.co.jp で和書を検索すると 3,439件が見つかりました。今日も新しい記事が掲載され,新刊本が出版されたことでしょう。

 これだけの情報が世の中に放出され続けていますが,みなさんの身近でそれを感じさせるモノ・コトはあるでしょうか。社会人の方であれば,職場に発達障害者をケアできる体制はあるでしょうか。学校であれば,発達障害学生向けの修学支援サービスを耳にしたことはあるでしょうか。おそらくは,身体障害者に関しては,職場や学校などで階段脇のスロープや車いす対応トイレが整備されている状況などから,「対策がなされている」と感じることができると思います。その一方で,私たちにとっては発達障害者への対策があるのかないのかわからないのが現状でしょう。

 私の所属する大学にも発達障害が疑われる学生や,すでに専門医の診察を受けてアスペルガー症候群と診断されている学生がいます。今回はそれらの学生のうち,あるアスペルガー症候群の学生に修学支援を行ったお話をします。発達障害者は外見ではわかりにくく大学での支援においても問題になっています。また,建物の改修などのハードウェアでは解決できない問題を多く含んでいます。大学では,履修の仕組みなどを含むソフトウェアの対策が必要です。

 最近,大学生の発達障害が問題になっています。小学校では,LDやADHDの児童による特徴的な行動が,いわゆる「学級崩壊」の発端であると指摘されてから久しいですが,原因を同じくした大学の「講義崩壊」とは, まず聞いたことがありません。大学には発達障害学生がたくさん入学しているにも関わらず。

 では,なぜ大学生の発達障害が問題になっているのでしょうか。それは,小学校が義務教育であって登校が半ば強制である一方,大学への通学は強制されることなくほぼ学生の自由であることが大きな要因と考えられます。高校までは決められたコース上で,与えられた課題をこなしていけばそれでよかったのですが,大学はあらゆる決定を自分で行う必要があります。その点,アスペルガー症候群の障害特性は学生生活に大きな困難を作ってしまうのです。

 発達障害学生のうちアスペルガー症候群の学生は,比較的高い知的能力を持ちます。本学に入学する学生は,高校まで常にトップクラスの成績であったに違いありません(予備校偏差値68以上とも)。そのように極めて高い知的能力を持ちながら,講義についていけず留年を繰り返している学生がいました。その学生Aさん(女性)は,本学保健センターの精神科医により見つけ出されました。

プロフィール

伊藤史人
 (いとうふみひと)

一橋大学教員。
電子情報通信学会発達障害支援研究会(ADD)幹事。
専門分野は、ICT(情報通信技術)を利用した障害者のコミュニケーション支援です。
しばらくは医用画像システムを専門としていたことから、その要素技術であるネットワークや画像処理をメインウェポンにして日々格闘中。
現在、勤務大学ではアスペルガー症候群の障害学生の修学支援として、ネットワークを使った遠隔講義を実施中です。
今後は、障害学生の認知数は増加すると見込まれるため、ICTを使った効果的な支援を模索中です。
コラムでは、ICTを使った発達障害の支援方法を中心に、その他の障害についても触れていく予定です。
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