第3回
「技術」はあるけど「制度」がない (1/3)

 発達障害というのは,一見そうとはわからないのが大きな特徴です。そのことも影響してか,本学においては発達障害の理解はもちろんのこと,そのような障害が存在しているという認識も広まっていません。そこで,去年度は,保健センターの教員が中心となって,教職員に対して発達障害学生の存在を啓蒙するための活動が行われました。中でも大きな活動としては,実際に発達障害学生への支援に取り組んでいる他大学職員を招いたFD(Faculty Development)です。なお,FDというのは大学等で行われる教職員を対象にした一種の勉強会です。しかしながら,その他の活動については全学的な取り組みが実施できたとは言えず,現在に至っても発達障害学生への支援体制が十分ではありません。

 ここから,第二回のお話の続きです。
 2011年4月現在,本学の発達障害学生(アスペルガー症候群)のAさんは,卒業するための取得単位が十分ではありませんでした。「講義に出られない」が理由です。障害由来であることは,主治医(精神科)の見解からも明らかでしたので,「合理的配慮」のもと大学は有効な対策を打つ必要がありました。保健センターの医師は偶然にも発達障害に関心のある精神科医であったことや,他大学の支援の動向も調べていたことから「合理的配慮」についての認識があったのです。とりあえずは,遠隔講義を実施するということを決めていたようですが,具体的な方法などはまったく未定でした。

 そこで,本学における理科系教員として私が招集されました。本学は文科系の大学であるため,技術的な対応については多くの教員は対応できないからです。なお,事務職員は本務ではないため積極的な対応はできません。私にとっても非公式の業務ではありましたが,その緊急性と「合理的配慮」を根拠とした必要性から,最小限の労力で遠隔講義を実現する方法を模索しました。

 いくつかの技術的な選択肢が考えられました。すぐに使える予算額や機材構成の簡便性を考慮して,インターネットを使った講義配信と受講環境を用意することとなりました。当時は,2011年度の夏学期(いわゆる前期)は東日本震災の影響で講義開始が3週間ほど遅れましたので,講義開始までに2週間ほどの準備時間がありました。

 技術的な対策と並行して,遠隔講義による単位認定が可能であるかどうかの検討が行われました。ただし,時間は限られているので,取り急ぎ全学委員会の障害学生支援委員会を通して,学生Aが履修を希望する講義担当教員に単位認定の可否のヒアリング調査をしました。原則的には,単位の認定は教員に一任されているからです。

 委員会の決定により,「遠隔講義」は次のように実施するものとし,各担当教員にヒアリングがなされました。おおむね,次のような内容です。『学生は,学内の保健センター内個室でリアルタイム受講する。出席は保健センター職員がとり,その結果は各教員に通知する。配布資料はカメラを設置する職員が適宜回収する。』

プロフィール

伊藤史人
 (いとうふみひと)

一橋大学教員。
電子情報通信学会発達障害支援研究会(ADD)幹事。
専門分野は、ICT(情報通信技術)を利用した障害者のコミュニケーション支援です。
しばらくは医用画像システムを専門としていたことから、その要素技術であるネットワークや画像処理をメインウェポンにして日々格闘中。
現在、勤務大学ではアスペルガー症候群の障害学生の修学支援として、ネットワークを使った遠隔講義を実施中です。
今後は、障害学生の認知数は増加すると見込まれるため、ICTを使った効果的な支援を模索中です。
コラムでは、ICTを使った発達障害の支援方法を中心に、その他の障害についても触れていく予定です。
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