第6回
福祉情報技術とストラテジー (1/3)

今年は東京より南では桜の開花が例年よりも早く,逆に北日本では記録的に遅い年となりました。先日(5月20日),岩手県の久慈市に行ってきましたが,まだまだ桜が咲いていましたし,八重桜や垂れ桜などはようやく見ごろを迎えています。ざっくり計算すると,今年の桜前線の移動速度は約1km/h。例年は人の歩く速度の4km/h程度と言われているので,やはりずいぶんと遅かったわけです。

ところで,国公立大学の2次試験の終わった日(2月26日),世界最大の福祉情報技術に関するカンファレンスであるAnnual International Technology and Persons with Disabilities Conference(テクノロジーと障害者会議)への参加ためアメリカは西海岸に飛びました。主催する大学の名前であるカリフォルニア大学ノースブリッジ校(California State University, Northridge)から通称CSUN(シーサン)と呼ばれ,今回で28回目を数えます。ここ数年はカリフォルニア州サンディエゴのハイアットホテルにて行われており,今年は2月25日から3月2日の日程で開催されました。私は初参加でした。

メインのセッションは3日間行われ,視覚障害(Blind/Low Vision)をはじめ,前回お話したAAC(Augmentative and Alternative Communications)や Webアクセシビリティ(Web Accessibility)を中心に熱いプレゼンテーションで盛り上がりました。さらには,認知障害(Cognitive Disabilities)や就労(Employment),中等後教育(Postsecondary Education)に関するセッションも盛んでした。いずれもテクノロジーを積極的に使ってそれぞれの課題の解決に取り組んでいる内容です。セッションのタイトルと要旨は CSUN2013 のサイト Sessionsからご覧いただけます。


写真1:発表会場

写真2:視覚障害のある数学教員(日本人)による発表

ところで,日本の同種のカンファレンスとずいぶんと異なっていたのは,どのセッションも女性が積極的に発表していた点です。その堂々たるプレゼンテーションには驚きです。国民性の違いを感じざるを得ません。もちろん,それはプレゼンテーターたちの生まれ持った素養だけではありません。アメリカではディベート等の自分の意思を伝えるための教育を受けている人が多いことも大きな要因です。移民の多い多民族国家アメリカですから,自分の意思は言語や文書でしっかり相手に伝える技術が必要なのです。質疑はプレゼンテーションの最中にも関わらず,フロアからどんどん声があがります。発表者も質問者もお互い納得するために,コミュニケーションを面倒くさがらずに本気でぶつかり合う活気のある雰囲気です(写真1・2)。日本の研究会ですと,質疑応答時間に沈黙が発生してしまうことも珍しくありませんが,ここCSUNではそのような発表が皆無でした。

プロフィール

伊藤史人
 (いとうふみひと)

一橋大学教員。
電子情報通信学会発達障害支援研究会(ADD)幹事。
専門分野は、ICT(情報通信技術)を利用した障害者のコミュニケーション支援です。
しばらくは医用画像システムを専門としていたことから、その要素技術であるネットワークや画像処理をメインウェポンにして日々格闘中。
現在、勤務大学ではアスペルガー症候群の障害学生の修学支援として、ネットワークを使った遠隔講義を実施中です。
今後は、障害学生の認知数は増加すると見込まれるため、ICTを使った効果的な支援を模索中です。
コラムでは、ICTを使った発達障害の支援方法を中心に、その他の障害についても触れていく予定です。
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