第5回 ICTが人の能力を代替・拡大する(2/2)
この例では,全盲の人が視覚によって文字を読むという不可能な行為を機械が読み上げることにより聴覚で代替しています。その他の障害者支援の例としては,残存する機能を増幅(拡大)して利用する方法があります。ほんの少ししか動かない指先でもワンスイッチでも押すことができれば,あらゆるパソコン操作が可能になります。いわゆる意思伝達装置を使えば,電子メールもインターネット閲覧も自由自在に利用できるようになります。これらは,拡大・代替コニュニケーション(AAC:Augmentative and Alternativ Communication)といわれ,1980年代から盛んに研究されており,パソコンのようにハイテクを使ったものから,透明文字盤のようにローテクなものまで幅広く使われてきました。
私の学生時代(1900年代後半),あるコンピュータ関連のメーリングリストに入っていた時のことです。質問者に対する明快な答えと,的確なアドバイスを連発するメンバーがいました。ただ,メール文面のレイアウトが完全な矩形であることや,独特な変換ミスがあるので面白い人だったことを思い出します。後に実際に会うことになって驚きました。そのメンバーは全盲だったのです。屋内でも真っ黒い大きなサングラスをして,白状を持って歩いていたのです。1996年ころのことでした。それを見て,コンピュータの持つ障害者への潜在能力を大いに感じたものでした。ただし,当時は音声読み上げを行うには,専用の音声合成装置が必要で,環境を整えるのは大変でした。なお,最近では,読み上げ装置は読み上げ機能として簡単に手に入り持ち運びも容易です。
さて,今回はICTを使った障害者の環境について簡単に述べました。テクノロジーは日々進化しています。それと同時に,AACの機器や,その手法も進化しています。次回は,アメリカはカリフォルニア州で行われた福祉情報関連の世界最大のカンファレンスCSUN(2013年3月)の報告も兼ねて,近年のAAC事情などについて報告したいと考えています。
恐ろしく早い満開によって,入学式にはきっと葉桜だろう一橋大学のキャンパスより
過去の記事
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