第1回「障害」・「障がい」・「障碍」とテクノロジー(2/2)

 さらには,彼らを「障害者」にしてしまう原因は一体何かと,周りを見渡してみれば,今の社会を構成するマジョリティー(多数派)専用の社会造りにあるのは明らかでした。例えば,街のちょっとした段差はマイノリティー(少数派)である車いす利用者には超えられない壁になる可能性もあります。それ自体が人を「障害者」としてあぶり出します。でも,マジョリティーにとっては何の障害もありませんから大きな問題にはなりません。人の動線から段差を無くせば車いす利用者にも楽々という,極めて単純な工夫で解決するのに社会造りはそうはなっていません。もし,いわゆる完全バリアフリー化した街であれば,車いす利用者の「障害者」を構成するパズルのピースをひとつ取り除いたことになります。その他どんどんピースを取り除いていけば,もはや「障害者」ではありません。彼らを見ていて分かったのは,それらのピースのほとんどは,実はマジョリティーが意図せずにはめ込んでしまったかもしれないということでした。もっと言えば,「障害者」という存在はマジョリティーから見た幻影である可能性さえあるのです。

 今の社会はいかにも「障害者」を数多く作ってきてしまいました。そのような中で,「障がい」や「障碍」と表現したところで本質は何も変わりません。私はあえて「害」と表現します。そして,その「害」の多くは既存のテクノロジーで緩和することが可能であることを示したいと考えています。

 メガネをかけた私は,メガネのない室町時代に行けば間違い無く「障害者」。今,2万円で買ったありふれたテクノロジーで「障害」を気にせず生きています。このコラムの発達障害者の支援についても,きちんとテクノロジーを工夫すれば「困った」が解消できるはずなのです。

 次回以降,ICTを中心にお話していきます。

お知らせ

 岩手県盛岡市にて8月18・19日の日程で、「重度訪問介護従業者養成研修総合課程」が行われます。重度障害者や難病患者の介護に関する研修となっており、現在は聴講生を募集しています。
 伊藤先生は、コミュニケーション技術に関する講義を2時間行う予定で、簡単な文字盤の使い方から意思伝達装置の紹介まで盛り沢山です。

 2日間の講座の中では、第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞者の川口有美子さんの講義もあります。聴講無料ですので、東北の方はぜひお越しください。

詳細は以下のURLでご確認ください。
NPO法人 さくら会
[URL:http://www.sakura-kai.net/wp/20120710/]
*適宜内容は更新します。

過去の記事

  • 第1回 「障害」・「障がい」・「障碍」とテクノロジー (2012-08-11)

プロフィール

伊藤史人
 (いとうふみひと)

一橋大学教員。
電子情報通信学会発達障害支援研究会(ADD)幹事。
専門分野は、ICT(情報通信技術)を利用した障害者のコミュニケーション支援です。
しばらくは医用画像システムを専門としていたことから、その要素技術であるネットワークや画像処理をメインウェポンにして日々格闘中。
現在、勤務大学ではアスペルガー症候群の障害学生の修学支援として、ネットワークを使った遠隔講義を実施中です。
今後は、障害学生の認知数は増加すると見込まれるため、ICTを使った効果的な支援を模索中です。
コラムでは、ICTを使った発達障害の支援方法を中心に、その他の障害についても触れていく予定です。
関連サイト
inserted by FC2 system