第5回
「頼む」のって難しいんだろうなぁ〜(2)
 支援者は気軽に「何でも頼めば良いよ」言うけれど…
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  前回「頼む」という事について、「何を頼めばよいか解らない」当事者の困難さを書きました。
 軽度知的当事者のSさんと話していて「できる事を証明するのは簡単だけど、できない事を証明するのは難しい」と言うことに気づかされました。
 当事者に対し「できない事は頼めばよい」という発想だけに留まっていると、どうしても支援の側の価値観や世界観から脱することができません。
 支援者が当事者の頼み事を「自分でできる」と判断すれば、頼み事を断るか、自分でできるように指導するかになりがちだからです。
 「彼にはできない」と判断すれば、本人の思いに関係なく周囲が勝手な理解の中でやってしまったり、やらせないようにしてしまうように思います。
 でも、実際のところ私たちは本人が「何を頼みたいのか解っていない」わけですから、そこに意識がないと当事者は頼むに頼めない状況が常にあるように思います。
 支援者は、「本人ができようができまいが、頼まれた事をまず引き受けてみる」事が必要だと思います。そして、実際に受けてみる事から本人が本当に頼みたい事や困っている点を明らかにしていく必要があるように思うのです。

 そんな想いで一人暮らしをする自閉を伴う重度知的当事者のMさんの介助に入りました。
 彼は人に事を頼むと事自体が非常に苦手です。そんな彼の介助に入ると非常にドタバタと落ち着かない状態の彼がいました。しばし自室で騒がしくしている彼。すると「来て!」と言う声があり彼の部屋に行きました。すると・・・
 Mさん「(窓を)開けて!」
 私「ハイ」(と言って開ける)
 Mさん(すぐさま)「(窓を)閉めて!」
 私「ハイ」(と言って閉める)
 Mさん「(ドアを)閉めて!」
 私「ハイ」(と言って閉める)
 Mさん(すぐさま)「(ドアを)開けて!」
 私「ハイ」(と言って開ける)
 Mさん・・・自室の窓やドアに留まらず家中の窓やドアの開閉を私に頼んできたのです。
 彼が言うがままに対応する私ですが、正直「なんのこっちゃ?」「何を私にさせるんだ〜」と思ってしまうわけです。
 「窓ぐらい自分で開けられるだろう」「開けたら何で閉めるの?」とあれこれ考えます。でも私の内心を自分の中に押さえ、彼が言うがままに対応しました。
 すると、彼は最後に「ハイ」と言った後、今までの騒動がうそのように落ち着き静まりました。う〜ん????
 でも、彼の頼みを受けたから静かになったのは確かなのですが・・・

 そこであれこれ考えてみて私が思い描いたことは、
 「自分でできる事を人に頼む」という手法で私を試したのではないか?と言うこと。

「自分でできるのに人に頼むってどういう事?」と誰しも思うでしょう。
 彼はそもそも人に「頼む」事自体が苦手です。でも、長年一人暮らしをする中で、ヘルパーさんや周囲の人たちがやってくれたら自分は楽になると言う経験を積み重ねてきたように思います。周囲が彼の意思に関わらず必要と思うことを彼に代わって行う。それを見てきた彼は、自分がやって欲しいと思う事やってもらうために「頼む」と言うことに挑戦したのだと思います。
 しかし「頼む」と言う行為は、相手があって成り立つこと。相手に頼んだことを相手はどのように受けるかわからないと「頼む」と言うこともできません。

プロフィール

岩ちゃん
(「岩ちゃん」さんとは言わないでね)

年齢:1963年 大阪産
現在:東京都在住
仕事:たこの木クラブ代表

たこの木クラブって何?
東京の端っこの方で活動しているちっちゃな市民団体です。1987年に誕生しました。

「地域でともに生きる」事をめざし、発足当初は「子ども達どうしの関係づくり」をテーマに、出会いの場としての子ども会や子ども達の日常である学校にこだわり活動してきました。
2000年あたりからは、障がい故に取り残されていく子ども達(青年たち)の課題として、進学・就労・自立生活といった様々な場面での支援を担っています。

「支援者」と言えば聞こえは良いのですが、「知的」とか「発達」といった障害名や専門性に疎く、長年付き合ってきた子ども達のほとんどが実は「自閉症」という領域にいる人たちである事を最近になって知ったほどです。
又、重度と呼ばれる人たちが多いため「自閉症」という人は皆、療育手帳が取れるものと思っていたまったくのど素人です。
でも、専門的な事はまったくわかりませんが、目の前にいる人たちと向き合い、今そして将来に渡り「誰もが地域で暮らし続ける」ために必要となる課題を日々悶々と模索しつつける事には変な自信を持っている私です。
共著『良い支援?』(生活書院)絶賛販売中!お求めはたこの木ブログより!

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歩くたこの木

著書・共著


良い支援?
知的障害/自閉の人たちの自立生活と支援
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